仕事が進まない人のブログ

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作業を小分けにすることの難しさ

あなたが大学院生で、1ヶ月後に修士論文の締切がある。書き上げて審査に通らなければ、留年となり就職もできない。したがって修士論文を書くことによる報酬は十分にあるはずである。そして、一応ではあるが、修士論文を書くための実験結果はある程度出ているとする。それなのに、書き始められず先延ばししてしまう。

そういうときに有効な対処法として、「作業を小分けにする」があります。

修士論文は大きめのタスクですが、そこまででなくても、完成させるのに数日以上かかるようなタスクは、それを考えただけでも嫌になります。そこで、タスクを小分けにすることで、短い時間で小さいタスクの達成を積み重ねることを目指すわけです。

まず間違いなく、何も計画をせずに大きなタスクを達成するのと、小さいタスクに小分けしてからそれぞれのタスクをこなしていくのとでは、後者の方が簡単です。だからこの対処法が言われるわけです。

しかし、それは単にタスク達成のための方法論を述べているに過ぎず、「仕事にとりかかれない」という人に対しては必ずしも有効ではありません。

では、試しに修士論文を書くというタスクを小分けする過程を実況してみましょう。

 

1ヶ月後に修論提出を控えているものの、なかなか書き始められない。そこで、まずは何をやらなければいけないか、整理することにした。

修士論文のフォーマットは決まっていて、それはもう手に入っている。まずはそれをもとに自分の名前を書いて、目次を作る。序論とか結論といった要素を埋める。

次に、どこから書くかを考える。書くべきことが決まっている提案方法の章から手をつけることにして、提案方法の章に書くことを考える。どういう手法を使うのか、なぜその手法を採用するのか、具体的な説明に必要な要素は何か、など・・・。

このあたりで、だんだんうんざりしてくる。提案方法の章で書かなければいけないことはたくさんあるのに、まだ章立ての1つを埋めたに過ぎない。これをあと4~5回繰り返しても、まだ論文の目次が埋まるだけである。

そこで、全体の計画を先に立てるのはあきらめて、提案方法を書き始めようとする。しかし、そうすると、結局修士論文を書くという仕事がものすごく困難な仕事に見えてきて、とても完成させられそうな気がしなくなってくる・・・。

では、提案方法の章を書くということをもっと小分けすればいいのではないか。その章の最初の節には、手法の概要とその手法を採用する妥当性を書くことにする。手法の概要を書くには、まずその手法の名前を挙げる。名前を書くには、例えば「この問題を解決するために、この論文では深層学習を用いる。」とでも書くか。いや何か変だ。こんな書き方をした論文はあまり見たことがない。もっとまともな書き方があるはずだ。そう思って今まで参考にした文献や論文の書き方についてのウェブサイトを見始める。見ているうちに、書き始めていない自分がだんだん不安になってくる。

やはり、最初の文を書くというタスクはまだ自分には大きすぎるのではないか。そう思って、このタスクをさらに小分けにすることにする。最初の文を書くには、少なくとも主語(主題)と動詞を考える必要がある。そして、主語を書くためには、書く単語を決めて、それをWordに打ち込むために必要なキーボード操作を行う必要がある。まず、Kというキーを右手の中指で押して離し、日本語入力モードであることを確認してから、次にOというキーを・・・

 

この学生は、仕事にとりかかることに悩んでいるにしては、かなり有望です。なぜなら、途中で横道に逸れていないからです。それに、まだ1文字も書き始めていないにせよ、この学生が実は仕事をすでに始めている、と多くの人は評価するでしょう。たぶん、仕事にとりかかれないことに悩んでいる人の多くは、この過程で挫折してしまうと思います。

作業を小分けにするというのは、つまり仕事の計画を立てることであって、計画を立てるというのはそもそも仕事の一部なのです。つまり、仕事にとりかかれないのであればまずは作業を小分けにして始めよう、という対処法は、「作業を小分けにする」というのが仕事の一部ではないと騙そうとしているのに過ぎません。

それでは、「作業を小分けにする」というタスクを小分けにすればいいのでは?

確かに、修士論文という大きなタスクを小分けにするのは、それ自体が大きなタスクであり、場合によっては数日かけてもおかしくありません。だから小分けにすると。

この戦略が上手くいかないのは、ちょっと考えればすぐわかると思います。まず大前提として、「作業を小分けにする」という技術を習得している必要があります。これはそれほど単純ではありません。少なくとも、Kと書かれたキーを打つ・・・などといった0.2秒で終わるタスクを書き下す必要はないだろうが、ではどこまで細かくすればいいのか、ということを学ぶ必要があります。

その技術を習得したとしても、次のように思ってしまったら? 「作業を小分けにするタスク」を小分けにするタスクが大きすぎる。これも小分けする必要があると・・・。

屁理屈みたいになってきましたが、実際のところ、「『作業を小分けにするタスク』を小分けにするタスク」を小分けにするタスクは、「作業を小分けにするタスク」を小分けにするタスクとやることは変わりません。小分けにするタスク自体の負荷が小さくなるように習熟する必要があるわけです。

そこで、タスク管理の技術を学び始めるわけです。タスク管理の技術を学ぶこと自体は、普通は仕事の一部とみなされません。少なくとも本人がタスク管理の技術を学ぶことを仕事と思っていなければ、とりかかれる可能性が出てきます。ここにようやく光明が見出されるわけです。